字多田ヒ力ルのトラヴェリング

ジタダヒチカラルの自由自在な動き回り方

ボウ・リング

 

 

 

 

既に身体は動き出している。

球の重さで右肩が後ろに強く引っ張られる。

中指、薬指、親指に力を込める。

振り子の要領で前に投げられるはずだ。

ピンの数は10。

狙うのは一番前のピンとその右隣のピンの間だ。

ストライクを取ろう、と思ったその時、

「オレが持っているのは人の頭じゃないか?」

という疑問が浮かんだ。

腕は加速していく。

そういえばボウリングの球を持った記憶がない。

投球動作に入っているのは間違いない。

だが、わたしは何ポンドの球も持っていない。

勢いよく腰がなぞられる。

中指と薬指を挿している穴の感触が気持ち悪い。

第二関節を植物が撫で、第一関節を粘膜のぬめりが襲う。

そして、わたしの親指はしっかりと鼻骨を捉えていた。

右腕が重力に逆らい昇ってくる。

誰だ。

誰の顔だ。

「誰だ!!」

首の無い男が一人でボウリングをしている。